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著 者:高田宏
出版社:学陽書房
書は、著者が青手桜花散文平鉢(石川県立美術館蔵)と出会った衝撃に触発されて、彩色磁器「古九谷」誕生を描く小説である。彩色磁器「古九谷」とは、江戸初期の短期間、加賀国大聖寺藩で制作され、世界美術史上の名品を残した謎の磁器。藩主前田利明、窯場奉行後藤才次郎、そして絵師の太吉ら九谷焼に情熱を傾けた人々の真実の姿に迫る。前田利明は、九谷焼繁栄のため肥前有田に勝る磁器を生産するため、肥前有田で技術を学んだ忠清に、後藤才次郎にかわり窯場奉行を任せようとする。しかし、それは有田焼の真似ごとに過ぎず、九谷焼の終焉を意味すると才次郎は思う。才次郎は絵師の太吉、その伴侶おりんとともに、九谷焼の最後の作品に取り組む。才次郎はいう、「殿様が気に入ろうが気に入るまいが、何百年の後の人でも、一度見たら引き込まれる絵を残さねばならん。一度見た目の裏に焼きついて忘れられんほどの絵でなくてはならん。そういう絵は、銭の世から離れて、心で描かねば生れないのだ」。古九谷の絵付けは、陶画工ではなく本画の画家が行い、一点物。大量生産・大量消費にはあわない。一方で「美の高さ」への眼差しが存在する。それが古九谷廃絶後、加賀の地に残されたものである。
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加佐の岬住所:石川県加賀市橋立町
問合せ先Tel:0761-72-6678(加賀市観光情報センター)この岬は35kmに及ぶ加賀海岸の内で最も日本海に突き出た岬である。だから灯台がつくられた。この灯台が放つ光は8,300カンデラで、25kmも離れたところから船舶や漁船が目印とすることができる。そしてこの岬の先端は、海蝕により砂岩が削られ、20〜30mの断崖が続く。海面からは小さな岩島が海に顔を出している。整備された自然遊歩道を歩くと、美のために銭の世から離れて、心で描こうとする熱情の湿感を感じられるかもしれない。
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青手土坡ニ牡丹図大平鉢住所:石川県加賀市大聖寺地方町1-10-13
Tel:0761-72-7466濃密な絵具で素地全体を覆いつくす青手の塗埋(ぬりうめ)技法や、色絵具を分厚く盛る賦彩(ふさい)技法は、古九谷の技法。中国・明代の文様をまとめた画譜からの画題を引用することもあるが、日本の狩野派の絵画や蒔絵や染色、欄間などの建築彫刻も投影される。だから古九谷は、桃山期から江戸の大名文化をベースとする。才次郎の言う「殿様が気に入らなくても」は、やはり「殿様が気に入る」に通じる。そこに庶民感覚では捉えきれない美の面白さがある。
石川県九谷焼美術館蔵