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著 者:河津聖恵(かわづきよえ)
出版社:思潮社
ク
オリア、主観的体験から知る質感。膨大な情報が行き交う現代社会で、その質感がモノやコトの本質をわたしたちに知らしめる。本書は、京都に住むH氏賞受賞の詩人、河津聖恵が、中上健次の「紀州 木の国・根の国物語」を追想し紀州・熊野を旅し、その体験を表現した13篇の詩による詩集である。紀州・熊野の文化の深層に触れ、旅の光景とともに、読む者に、人や風景との魂の交感を直感的に伝える。新鹿は三重県、和歌山県に近い熊野市にある地名。山を背に白砂のビーチが広がり、中上健次が一時暮らした場所。国道311号はここから、和歌山県田辺市に通じる道で熊野古道中辺路に沿う路線、河津が旅した道である。“あたしか、みずからの声なき声にみちびかれ 新鹿、まだみぬ聖なる故郷を信じて 国道311号線からのささやかなディアスポラ(離散定住者)”。江戸期浜松から新宮へ転封の藩主に連れられた武具製造に携わる職人・処刑人。美しい自然とともに「差別」にも鋭く目を向けルポした中上健次。それらの歴史、足跡をたどるも、河津は象徴詩を超えクオリア溢れる詩を綴る。そして河津の旅は、生命(いのち)を揺らす和歌山県白浜の「江津良の海」に至る。
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原勝四郎作「江津良の海」住所:和歌山県田辺市たきない町24-43
Tel:0739-24-37701500万年前の波の鼓動の化石が残る江津良の海を、和歌山県田辺市出身の原勝四郎が1951年に描いた油彩画である。第5回「二紀展」に出品され、色鮮やかに描かれ、色彩の効果を生かして空間構成を表現する原の戦後の特徴、作風を代表する作品。写真から描いた風景作品ではない。そこには、波の鼓動から生まれ進化した人が、はなかき生命(いのち)をもって生きるリズムを思い出させる、ゆれゆられる感覚を見る者に優しく伝えている。
田辺市立美術館蔵