人の影、写楽の影
昔、用件や意思を伝えたのは筆。筆を使えば、その人の影も伝わります。スマホやラインの現代。人は徐々に影を失い、そして機械で済ませる。東洲斎写楽は、江戸寛政期(1794—1795年)のたった10ヶ月で姿を消した浮世絵版画師です。半身や胸像の“大首絵”と言われた役者絵を、大胆な構図で描き、背景は黒一色。一方で日本絵画は、描線と余白を大切にします。だから写楽には、背景を黒一色にする必要性があった。でも写楽の黒には、キラキラ輝く雲母が混ぜられていました。時に不得手から創造が生まれることがあります。黒キラは世界の写楽の影です。

重要文化財 三代目沢村宗十郎の大岸蔵人
東洲斎写楽筆 江戸時代・寛政6年(1794)
(10/23~11/18 本館10室 展示予定)