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著 者:マルセル・プルースト 出版社:集英社 |
の本は全13巻の長編小説、冬の日に何気なく紅茶に浸したプチット・マドレーヌを口に入れたとたん、主人公が幼年時代を過ごした場所の生きた姿が蘇ることからはじまる。19世紀末から20世紀初頭のパリのベル・エポック、よき時代の情景や心理を格調高く描写する作品。そこには善悪ではない、徹底した事実の観察がある。その観察はのちにパリのアーケード街、「パサージュ」を遊歩し、バサージュ論を書き残したベンヤミンにつながる。プルーストは、ひとの主観的な体験から生まれる質感、クオリアで記憶をたどり過去をたどる。善悪や市場価格ではない、質感、クオリアで事実を見れば事実の奥行きも感じられる。お茶や枯山水の庭園にも通じる感覚。その感覚で、古代ローマ人がその場所の安定性や個性を感じ取ったゲニウス・ロキ、「場所の守護霊」も感じ取れる。19世紀からはじまる産業社会や消費社会は、ものの価値を市場価格で単純化していく。しかし事実は決して単純ではなく、いろいろなものがかさなりあって生きている。UMAMIも生きているものである。それらを質感で料理の奥行きの中に包み込むから、グランシェフの料理には価値がある。そこに女神も訪れる。
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守屋多々志作「住吉燈台(夏祭)」住所:岐阜県大垣市郭町2-12
Tel:0584-81-0801失われた時を求めて。法隆寺金堂壁画の再現模写にも取り組んだ同郷の日本画家、前田青邨(せいそん)に師事した守屋多々志が生まれたのが大垣市船町である。そして本作は、その船町のシンボルである住吉燈台の夏祭りを描いた作品である。水の都・大垣の夏の情緒を描き、大垣の旅情をスケッチしている。松尾芭蕉が「奥の細道」紀行の終点「むすびの地」大垣へ到着したのは元禄2年8月21日であり、かの地にしばし留まり、旅の疲れを癒した。何度も大垣を訪ねた芭蕉の気持ち、その心情も理解できる作品。
大垣市守屋多々志美術館所蔵