新鹿(あたしか)

2013年3月31日

ブック+

新鹿
あたしか

著 者:河津聖恵(かわづきよえ)

出版社:思潮社

オリア、主観的体験から知る質感。膨大な情報が行き交う現代社会で、その質感がモノやコトの本質をわたしたちに知らしめる。本書は、京都に住むH氏賞受賞の詩人、河津聖恵が、中上健次の「紀州 木の国・根の国物語」を追想し紀州・熊野を旅し、その体験を表現した13篇の詩による詩集である。紀州・熊野の文化の深層に触れ、旅の光景とともに、読む者に、人や風景との魂の交感を直感的に伝える。新鹿は三重県、和歌山県に近い熊野市にある地名。山を背に白砂のビーチが広がり、中上健次が一時暮らした場所。国道311号はここから、和歌山県田辺市に通じる道で熊野古道中辺路に沿う路線、河津が旅した道である。“あたしか、みずからの声なき声にみちびかれ 新鹿、まだみぬ聖なる故郷を信じて 国道311号線からのささやかなディアスポラ(離散定住者)”。江戸期浜松から新宮へ転封の藩主に連れられた武具製造に携わる職人・処刑人。美しい自然とともに「差別」にも鋭く目を向けルポした中上健次。それらの歴史、足跡をたどるも、河津は象徴詩を超えクオリア溢れる詩を綴る。そして河津の旅は、生命(いのち)を揺らす和歌山県白浜の「江津良の海」に至る。

本から始まる旅がある。

    オススメ旅プラン
  • 円月島

    円月島
    えんげつとう
    の夕日

    住所:和歌山県西牟婁郡白浜町臨海
    問合せ先Tel:0739-43-5511(白浜観光協会)

    の中央が海蝕で丸い月のよう開いている円月島は南紀・白浜のシンボルである。大きさが南北130m、東西35m、高さ25mの小さい島。白浜・臨海浦の海岸から遠浅で、透明度が高い海に浮かんでいる。風波による岩の崩落が進み、島には管理者の許可なく近づけないが、夕景は格別の美しさである。夏は18時30分頃で、冬は16時30分頃。その情景を眺めると、自然なる何かと人が、ゆれゆられ ふれあうことができる感覚が味わえる。                                                             

  • 白浜の化石漣痕

    白浜の化石漣痕
    しらはまかせきれんこん

    住所:和歌山県西牟婁郡白浜町江津良
    問合せ先Tel:0739-43-5830(白浜町教育委員会)

    月島の臨海から南の白浜桟橋にいく途中に江津良海水浴場がある。ここに「化石漣痕」がある。浅い海底の砂紋が化石したもの。当時の波の鼓動が見える。ではその当時とは、地質学時間で新世代、1500万年前である。恐竜の時代が終わり、人類はまだ生まれていない。日本列島が大陸から切り離された時代である。波の鼓動から生命は生まれ、ほ乳類、人類は進化した。ひとがゆれゆられる感覚を取り戻すということは、波の鼓動を思い出すということだ。                                            

  • 原勝四郎作「江津良の海」

    原勝四郎作「江津良の海」

    住所:和歌山県田辺市たきない町24-43
    Tel:0739-24-3770

    500万年前の波の鼓動の化石が残る江津良の海を、和歌山県田辺市出身の原勝四郎が1951年に描いた油彩画である。第5回「二紀展」に出品され、色鮮やかに描かれ、色彩の効果を生かして空間構成を表現する原の戦後の特徴、作風を代表する作品。写真から描いた風景作品ではない。そこには、波の鼓動から生まれ進化した人が、はなかき生命(いのち)をもって生きるリズムを思い出させる、ゆれゆられる感覚を見る者に優しく伝えている。

    田辺市立美術館蔵

新鹿(あたしか)

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